はじめに
量子コンピュータのハードウェア解説シリーズ第二弾は、超伝導回路。現状開発が進んでいる量子コンピュータの殆どは超伝導回路を用いたものである(最近話題の量子ニューラルネットは除く*1)。
ただし、一口に超伝導量子ビットと言っても、様々な技術方式がある。大きく分けても「電荷型」「位相型」「磁束型」「トランズモン型」の4種類。周辺回路の工夫まで含めると論文ごとに違う方式があると言っても過言ではないくらいだ。超伝導量子ビットは、以前紹介したシリコンなどの他の方式と比べるとエンジニアリングの色が非常に濃い。
この中で、今回は「磁束型」を紹介する。理由は2つ。まず、D-Waveは磁束型、IBMはトランズモン型を採用しているという事実。つまりこの2方式が現在のトレンドである。もう一つの理由は、この2つの中では磁束型の方が理解するのが簡単そうだったからである。ただし、あくまでも色々な論文を読んだ上で説明しやすい部分をツギハギして紹介するので、必ずしもD-Waveの技術を紹介するものではない*2。あえて言うとNTTの論文が非常に参考になったが、説明はツギハギである。
なお、私は実際に超伝導量子ビットを見たことは一度もない。これから説明することはすべて論文を読んだだけの知識なので、正確性は保証しかねることをお断りしておく。
素子の写真
では、実際に超伝導量子ビットの回路構成を写真で見てみよう(図1)。なお、超伝導量子ビットは現在では集積化が当たり前になっているが、今回は比較的初期の論文から、1量子ビットを扱ったものを持ってきた(文献[1]および文献[2])。基本的な構成は、シリコン基板の上にアルミニウムの超伝導回路が載っている、というものだ*3。
各回路の役割
では、各回路の役割をざっと説明していこう。
①磁束量子ビット構成用超伝導リング
左の写真の中央やや上に、二重に四角形のループがある(右側の拡大図の方がより分かりやすい)。このうち内側の方が量子ビット本体である。このリングを流れる電流の向きによって、「0」と「1」を表現する*4。また、超伝導リングの真ん中には、外部から静磁場が加えられる(詳細は後述)。
②③④データ読み出し(量子状態測定)用回路
二重四角ループの外側部分(②)は、量子ビット読み出し回路の中核をなす、SQUID*5と呼ばれる回路である。③はデータ読み出しのトリガー信号を入力する導線で、④はデータを取り出すための出口の役割を果たす。
なお、SQUIDは量子コンピュータ専用の部品というわけではなく、超高感度磁場センサとして医療機器などに使われている独立した技術である。
また、①量子ビットと②SQUIDには、一部回路が細くなっている部分がある(拡大図の赤い矢印の部分)。この部分にはジョセフソン接合と呼ばれる細工がしてあるのだが、詳細は次回に解説する。
参考文献
超伝導量子ビットの写真は、NTTの論文からお借りした。ただし、それは写真が綺麗で最も説明しやすいものだったからであり、この記事は必ずしもNTTの技術のみを説明するものではない。
[1] K. Kakuyanagi et al., Dephasing of a Superconducting Flux Qubit. Phys. Rev. Lett. 98, 047004 (2007)
[2] 仙場浩一, 超伝導量子ビットと単一光子の量子もつれ制御, NTT技術ジャーナル2007年11月号